2025/02/12

バイトコード入門 その2 スタックマシン

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前回からはじめたバイトコード入門。なかなかバイトコードに入れなくても申し訳ないのですが、今回はスタックマシンについて紹介します。

  1. 準備編 (前回)
  2. スタックマシン (今回)

 

スタックマシン

スタックマシンというのは計算モデルの1つです。

スタックマシンと、よく引き合いに出される計算モデルにレジスタマシンがあります。

この2つの計算モデルはメモリーの使い方にあります。

  • スタックマシン: メモリーをスタックとする計算モデル
  • レジスタマシン: メモリーをレジスタとする計算モデル

純粋なスタックマシンはスタックだけで構成しますが、通常はランダムアクセスができるメモリーと組み合わせで使われることが多いです。これはレジスタマシンでも同様で、通常はレジスタ以外にメモリーを使用します。

スタックマシンにはJVMの他にも.NET Frameworkでも使用されています。

一方、既存のほとんどのCPUがレジスターマシンになります。

たとえば、レジスターマシンで加算を行う場合、aレジスタの値とbレジスタの値を加算して結果をaレジスタに格納するというような命令になります(add a, bのような感じです)。

命令の対象が明確に記述されているので、分かりやすいはずです(とはいうものの、機械語でプログラムを書けと言われてもイヤですけど😰)

では、スタックマシンはどのように動作するのでしょう?

ここでは、単純な例としてHPの電卓でスタックマシンの動作を説明していきます。

 

HPの電卓

HPというと、紆余曲折あってPCやプリンターのHP Inc.とサーバーのHPEになっていますが、かつては計測機器を扱う会社でした。そんなHPが1970年代から2000年代にかけて電卓を作っていたのでした。

当時は、関数電卓やプログラム電卓といったらHPという感じで、そこそこ使われていました。プログラム電卓というのは、その名の通りプログラムが組める電卓です。

このHPの電卓は、なんといっても入力方式が独特でした。

たとえば、1+2を計算する場合、通常の電卓であれば 1 + 2 = と入力しますね。これに対し、HPの電卓は 1 [Enter] 2 [Enter] + と入力しました([Enter]というボタンがあったのです)。

[Enter]を省略して記述すると 1 + 2 は 1 2 + になるということです。この数式の書き方は逆ポーランド記法と呼ばれています。

 

逆ポーランド記法

ちょっと脱線気味ですが、逆ポーランド記法についても説明しておきましょう。

「逆」とついていることから分かるかもしれませんが、「逆」ではないポーランド記法もあります。というか、こちらが先ですね。

ポーランド記法はJan Łukasiewicz (ヤン・ウカシェヴィチ)が発案した数式の記法です。

演算子を先に記述することから前置記法とも呼ばれます。

私たちが通常使用している 1 + 1 のような記法は演算子が数値の間に記述されるので中置記法と呼びます。逆ポーランド記法は演算子が最後なので、後置記法になります。

 

逆ポーランド記法の利点はカッコを使用せずに数式を記述できるところです。

たとえば、以下の数式はどうでしょう。

(2 + 3) × 5 + (4 - 2) ÷ 2

これを逆ポーランド記法で記述すると以下のようになります。

2 3 + 5 × 4 2 - 2 ÷ +

カッコがないというのは、電卓でメモリ機能(M+やM-、MRCなど)を使わなくても計算ができるということで、入力が簡単になります。まぁ、逆ポーランド記法で考えなければいけないというハードルはありますけど。

そして、もう1つの利点が、逆ポーランド記法はスタックを使えば簡単に実装できるということです。

 

スタックを使用した逆ポーランド記法の計算

では、逆ポーランド記法の数式をスタックを使用して計算してみましょう。

ルールは簡単です。

  1. 数値であれば(HPの電卓では、[Enter]が入力されたら)その値をスタックに積む
  2. 演算子であれば、演算に必要な個数のデータをスタックから取り出し、計算結果を再びスタックに積む

では、1 + 2をやってみましょう。

 

電卓であれば、スタックの先頭を表示していれば計算結果が表示されます。

複雑な数式でも計算の途中結果がスタックに保持されているので、スタックとは別のメモリーを使用しなくても計算が実行できます。

 

電卓では計算だけですが、一般のスタックマシンでも同様に必要なデータをスタックに置き、処理の結果を再びスタックに置くという過程で処理が進みます。

これはJVMでも同様です。

では、次回は実際にJVMでどのようにスタックマシンが構成されているのか紹介する予定です。

2025/02/10

バイトコード入門 その1 準備編

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先月のJJUGナイトセミナーで、Class-File APIとその前提知識となるバイトコードについてプレゼンしてきました。資料はこちら。

 

おかげさまで、コロナ後のオフラインに戻してから初のキャンセル待ちとなるぐらい盛況でした。もっともバイトコードの話よりも、増田さんのアーキテクチャーの話の方が期待されていたとは思いますけど。

 

まぁ、それはそれとして、バイトコードがどのように実行されるかというところから、Class-File APIまでを50分で説明するのは分量的になかなか難しく、特にClass-File APIの方はかなりはしょった説明になってしまいました。

そういえば、今までJava in the Boxでもバイトコードに関して触れたことがなかったので、いい機会ですし、バイトコードって何というところから説明していきたいと思います。

 

バイトコードって何?

Javaでシステムを作っているだけであれば、バイトコードに触れる機会はまずないはずです。

バイトコードというのはJava特有の言葉ということではなく、他にも使われる言葉です。

一般的には仮想マシンなどの実行環境が解釈するための中間表現です。人間が読むことを想定しておらず、バイナリーで記述されるため、バイトコードと呼ばれるようです。

Javaの場合、バイトコードは当然ながらJVMが解釈するために使用されます。

バイトコードは約200種類のJVMに対する命令(オペコードもしくはインストラクションと呼ばれます)からなっています。もちろん、バイナリーなので16進数表記で表されますが、さすがにそれでは読みにくいのでloadやstoreなど命令に1対1に対応づいた表記で表されることが多いです。

機械語に対しうるアセンブラのようなものですね。

具体的な命令などは次回以降に説明します。

 

バイトコードはどこに記述される?

Javaのソースコードをjavacでコンパイルすると、クラスファイルが生成されます。このクラスファイルにバイトコードが含まれています。

なお、クラスファイルにはバイトコード以外にも実行に必要な情報が含まれています。

バイトコードの定義や、クラスファイルのフォーマット定義などはJava Virtual Machine Specification (JVS)に記載されています。

Java言語の仕様であるJava Language Specification (JLS)は、Javaのバージョンごとに改定されていますが、JVMSも同じくバージョンごとに改定されます。

最新版のJava 23でのJVMSは以下のURLで参照できます。

クラスファイルのフォーマットは4章、バイトコードは6章に記載されています。

クラスファイルには大まかにいうと、以下の4つの情報が記録されています。

  1. クラスファイルの情報
  2. クラスの情報
  3. コンスタントプール
  4. アトリビュート

クラスファイルの情報にはクラスファイルのバージョンなどが含まれます。Java言語にもバージョンがありますが、クラスファイルにもバージョンがあるのです。

たとえば、Java 23のjavacでコンパイルされたクラスファイルのバージョンは67になります。

クラスの情報は、クラス名やスーパークラス、実装しているインタフェースなどです。コンスタントプールはクラスで使用される様々な定数を定義していあります。

最後のアトリビュートは様々な情報を記載することができ、バイトコードもそのうちの1つになります。

アトリビュートにはバイトコード以外にフィールド定義やメソッド定義などが記載されています。

 

javapコマンド

前述したようにバイトコードはバイナリで表されます。同様にクラスファイルも人が読むことを想定していないため、バイナリファイルです。

とはいうものの、クラスファイルに何が記述されているのか確認したいこともありますよね。

こういう時に使用するのが、JDKに含まれているjavapコマンドです。

javapコマンドはいろいろな情報が出せるので、さっそく試してみましょう。

サンプルに使うのはおなじみのHello, World!です。

public class Hello {
    static final String HELLO = "Hello, World!";

    private void sayHello() {
        System.out.println(HELLO);
    }
    
    public static void main(String... args) {
        new Hello().sayHello();
    }
}

 

まず、javacでコンパイルしてから、javapを実行します。javapの引数はクラス名もしくはクラスファイル名です。

> javac Hello.java

> javap Hello
Compiled from "Hello.java"
public class Hello {
  static final java.lang.String HELLO;
  public Hello();
  public static void main(java.lang.String...);
}

>

 

何もオプションを指定せずにjavapを実行すると、クラスの情報と宣言されているフィールド、メソッドの情報が出力されます。

しかし、何か抜けているような気がしませんか。

そう、プライベートメソッドのsayHelloメソッドが抜けているのです。

javapはデフォルトでは、パッケージプライベートで宣言されたフィールド、メソッドしか出力しません。プライベートで宣言されたフィールド、メソッドを出力するには、オプションの-privateもしくは-pを指定します。

> javap -p Hello
Compiled from "Hello.java"
public class Hello {
  static final java.lang.String HELLO;
  public Hello();
  private void sayHello();    
  public static void main(java.lang.String...);
}

>

 

この出力結果を見ると、Helloクラスはパブリッククラスで、フィールドはパッケージプライベートでstatic finalのHELLO、メソッドはデフォルトコンストラクター、sayHelloメソッド、そしてstaticメソッドのmainが宣言されていることが分かります。

元のHello.javaにはデフォルトコンストラクターは記述されていませんが、コンパイル時に自動生成されます。

 

バイトコードの解析: -cオプション

javapコマンドでバイトコードを出力するには、-cオプションを使用します。

> javap -p -c Hello
Compiled from "Hello.java"
public class Hello {
  static final java.lang.String HELLO;

  public Hello();
    Code:
         0: aload_0
         1: invokespecial #1                  // Method java/lang/Object."<init>":()V
         4: return

  private void sayHello();
    Code:
         0: getstatic     #7                  // Field java/lang/System.out:Ljava/io/PrintStream;
         3: ldc           #15                 // String Hello, World!
         5: invokevirtual #17                 // Method java/io/PrintStream.println:(Ljava/lang/String;)V
         8: return

  public static void main(java.lang.String...);
    Code:
         0: new           #13                 // class Hello
         3: dup
         4: invokespecial #23                 // Method "<init>":()V
         7: invokevirtual #24                 // Method sayHello:()V
        10: return
}

>

 

この場合でも、-pオプションを使用しないとプライベートフィールド、メソッドは出力されないので、忘れないようにしましょう。

バイトコードはメソッド定義の後のCode:の次の行から始まります。aload_0やinvokespecialなどがバイトコードの命令です。

invokespecial #1のように、#と数字で表示されているのはコンスタントプールを指しています。#1はコンスタントプールのインデックス1の定数です。具体的にはコメントで示されているように、Objectクラスのデフォルトコンストラクタへのメソッド参照です。

なお、このコメントはjavapが解析結果を付記したもので、クラスファイルに記載されているわけではありません。

このコメントがあると、バイトコードやコンスタントプールを読む手間がかなり省けるはずです。

 

全部出力: -verbose/-vオプション

バイトコードだけでなく、コンスタントプールの値や、その他のアトリビュート、フラグなどの情報を出力するには-verboseもしくは-vオプションを使用します。

ちょっと長いですが、Helloクラスを-vでの出力を以下に示します。

 

> javap -p -v Hello
Classfile /temp/Hello.class
  Last modified 2025/02/09; size 557 bytes
  SHA-256 checksum 5b4893687f4d64e1e6a659d495f8febf0680a2a3d8a036c2e40c5057d2d0c5d1
  Compiled from "Hello.java"
public class Hello
  minor version: 0
  major version: 68
  flags: (0x0021) ACC_PUBLIC, ACC_SUPER
  this_class: #13                         // Hello
  super_class: #2                         // java/lang/Object
  interfaces: 0, fields: 1, methods: 3, attributes: 1
Constant pool:
   #1 = Methodref          #2.#3          // java/lang/Object."<init>":()V
   #2 = Class              #4             // java/lang/Object
   #3 = NameAndType        #5:#6          // "<init>":()V
   #4 = Utf8               java/lang/Object
   #5 = Utf8               <init>
   #6 = Utf8               ()V
   #7 = Fieldref           #8.#9          // java/lang/System.out:Ljava/io/PrintStream;
   #8 = Class              #10            // java/lang/System
   #9 = NameAndType        #11:#12        // out:Ljava/io/PrintStream;
  #10 = Utf8               java/lang/System
  #11 = Utf8               out
  #12 = Utf8               Ljava/io/PrintStream;
  #13 = Class              #14            // Hello
  #14 = Utf8               Hello
  #15 = String             #16            // Hello, World!
  #16 = Utf8               Hello, World!
  #17 = Methodref          #18.#19        // java/io/PrintStream.println:(Ljava/lang/String;)V
  #18 = Class              #20            // java/io/PrintStream
  #19 = NameAndType        #21:#22        // println:(Ljava/lang/String;)V
  #20 = Utf8               java/io/PrintStream
  #21 = Utf8               println
  #22 = Utf8               (Ljava/lang/String;)V
  #23 = Methodref          #13.#3         // Hello."<init>":()V
  #24 = Methodref          #13.#25        // Hello.sayHello:()V
  #25 = NameAndType        #26:#6         // sayHello:()V
  #26 = Utf8               sayHello
  #27 = Utf8               HELLO
  #28 = Utf8               Ljava/lang/String;
  #29 = Utf8               ConstantValue
  #30 = Utf8               Code
  #31 = Utf8               LineNumberTable
  #32 = Utf8               main
  #33 = Utf8               ([Ljava/lang/String;)V
  #34 = Utf8               SourceFile
  #35 = Utf8               Hello.java
{
  static final java.lang.String HELLO;
    descriptor: Ljava/lang/String;
    flags: (0x0018) ACC_STATIC, ACC_FINAL
    ConstantValue: String Hello, World!

  public Hello();
    descriptor: ()V
    flags: (0x0001) ACC_PUBLIC
    Code:
      stack=1, locals=1, args_size=1
         0: aload_0
         1: invokespecial #1                  // Method java/lang/Object."<init>":()V
         4: return
      LineNumberTable:
        line 1: 0

  private void sayHello();
    descriptor: ()V
    flags: (0x0002) ACC_PRIVATE
    Code:
      stack=2, locals=1, args_size=1
         0: getstatic     #7                  // Field java/lang/System.out:Ljava/io/PrintStream;
         3: ldc           #15                 // String Hello, World!
         5: invokevirtual #17                 // Method java/io/PrintStream.println:(Ljava/lang/String;)V
         8: return
      LineNumberTable:
        line 5: 0
        line 6: 8

  public static void main(java.lang.String...);
    descriptor: ([Ljava/lang/String;)V
    flags: (0x0089) ACC_PUBLIC, ACC_STATIC, ACC_VARARGS
    Code:
      stack=2, locals=1, args_size=1
         0: new           #13                 // class Hello
         3: dup
         4: invokespecial #23                 // Method "<init>":()V
         7: invokevirtual #24                 // Method sayHello:()V
        10: return
      LineNumberTable:
        line 9: 0
        line 10: 10
}
SourceFile: "Hello.java"

>

 

Constant pool:で始まる次の行からがコンスタントプールです。

先ほど-cオプションで出力したバイトコードで#1が参照されていましたが、このコンスタントプールの表で見てみましょう。

#1の行にはメソッドの参照を示すMethodrefに続いて#2.#3と記載されています。

#2のClassはクラスの参照を示しており、その名前は#4に記載されいます。

#4の後のUtf8は文字列を表しています。#4で定義されている文字列定数はjava/lang/Object、つまり#2で参照していたクラス名です。

では、#1で参照しているもう1つの#3を見てみましょう。

#3はNameAndType、つまりメソッド名と型(ここではクラス名ではなく、メソッドのシグネチャーです)を示しており、#5と#6を参照しています。

#5は文字列定数で<init>、これはコンストラクタを表しています。#6も文字列定数で()Vです。これはメソッドのシグネチャーが引数なし、戻り値がvoidであることを示しています。

このように、コンスタントプールは参照、参照となっていますが、各々の行にコメントが追記されているので、これを見れば参照を追わずとも分かるはずです。

 

フィールドやクラスも追加の情報が記載されていることが分かると思いますが、これらに関してはバイトコードの詳細説明の時に触れる予定です。

 

準備編まとめ

  • バイトコードはJVMが解釈するための中間表記
  • クラスファイルにはバイトコード以外に実行に必要な情報が記載される
  • クラスファイルの解析コマンド javap
  • javapでプライベートを含めて出力: -pオプション
  • javapでバイトコードを出力: -cオプション
  • javapで全部出力: -vオプション

 

次回は、バイトコードの詳説に移りたいところですが、その前の事前知識としてスタックマシンについて紹介する予定です。

2025/01/09

Stream Gatherer 動作編

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年が変わってしまいましたが、前回の続き。前回はこちら

全開でGathererの使い方を一通り説明したので、今回はGathererがどのように動作しているのかを解説していきます。

 

Stream APIの動作

Gathererがどのように動作するのかを説明する前に、もともとのStream APIがどのように動作しているのか復習しておきましょう。

といっても、詳しく説明すると長くなってしまうので、簡単に。

ここではIntStreamインタフェースなどのプリミティブ系は省略、またシーケンシャルな動作に限定して説明します。

Streamの実行に重要なインタフェース

Stream APIの動作を説明する前に、Stream APIを使っているだけであれば出てこない、でも実装では重要なインタフェースを2つだけ先に紹介しておきます。

  • java.util.Spliterator
  • java.util.stream.Sink

Spliteratorインタフェースは公開インタフェースで、Sinkインタフェースはパッケージプライベートなインタフェースです。

1つ目のSpliteratorインタフェースはSplit + Iteratorのことで、簡単にいえばストリームのイテレーションを制御するインタフェースになります。

Splitがパラレルの場合で、分割統治法により個々の要素を処理します。Iteratorがシーケンシャルの場合で、こちらは普通のイテレーターですね。

Spliteratorオブジェクトはソースによって実装クラスが異なり、ソースからStreamオブジェクトを生成する時に一緒に作られます。

もう一方のSinkは、台所にあるシンクと同じ単語です。動詞だと「沈む」もしくは「沈める」という意味です。

何が沈んでいるかというと操作です。中間操作や終端操作で行われる操作がSinkに沈められています。

SinkインタフェースはConsumerインタフェースのサブインタフェースで、acceptメソッドがコールされると、その操作が実行されます。

 

Sinkオブジェクトで操作を実行する仕組み

では、コードを使って説明していきましょう。ここでは、次のコードで説明していきます。

    var stream = Stream.of(0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9);
    var stream2 = stream.map(i -> Integer.toString(i));
    var result = stream2.reduce("", (prev, pres) -> prev + pres);

 

Integerのリストを文字列化して、文字列の連結を行うコードです。

さて、ここで変数stream2の型はどうなるでしょう?

もちろん、Streamインタフェースではありますが、Streamインタフェースを実装したコンクリートクラスの方です。

答えはStatelessOpクラスの匿名クラスです。

このStatelessOpクラスが、mapメソッドやfilterメソッドなど状態を持たない中間操作で使用されるクラスです。

StatelessOpクラスのスーパークラスがReferencePipelineクラスで、ReferencePipelineクラスがStreamインタフェースを実装しています。

Referenceなのはストリームを流れる要素が参照型だからで、intであればIntPipelineクラスになります。

それはそれとして、ここで使われているStatelessOpクラスの匿名クラスを生成している部分が次のコードになります。ここでは、mapメソッドの場合です。

    public final <R> Stream<R> map(Function<? super P_OUT, ? extends R> mapper) {
        Objects.requireNonNull(mapper);
        return new StatelessOp<>(this, StreamShape.REFERENCE,
                StreamOpFlag.NOT_SORTED | StreamOpFlag.NOT_DISTINCT) {
            @Override
            Sink<P_OUT> opWrapSink(int flags, Sink<R> sink) {
                return new Sink.ChainedReference<>(sink) {
                    @Override
                    public void accept(P_OUT u) {
                        downstream.accept(mapper.apply(u));
                    }
                };
            }
        };
    }

 

StatelessOpクラスの匿名クラスを作る時に、opWrapSinkメソッドをオーバーライドしています。ここで、Sinkが出てきましたね。

opWrapSinkメソッドの中ではSink.ChainedReferenceクラスの匿名クラス生成しています。もちろん、Sink.ChainedReferenceクラスはSinkインタフェースの実装クラスです。

Sink.ChainedReferenceクラスはその名の通りSinkをチェーンでつなげていくインタフェースです。フィールドに下流のSinkオブジェクトであるdownstreamを保持しています。

Gathererでもdownstreamが出てきましたが、ここでは次段のSinkオブジェクトを表しています。

そして、赤字で示したacceptメソッドで、mapメソッドの引数で指定された関数(Functionインタフェースのラムダ式)を実行し、その結果を引数にして下流のSinkオブジェクトのacceptメソッドをコールしています。

これで、中間操作の操作を順々に実行する仕組みができました。

 

終端操作のSinkオブジェクトを生成する仕組み

実際に中間操作から終端操作まで操作をつなげていくのは、終端操作の時です。

まずは終端操作に対応するSinkオブジェクトを作るしくみです。これはreduceメソッドの内部でコールされるReduceOps.makeRefメソッドで行われます。

    public final <R> R reduce(R identity, BiFunction<R, ? super P_OUT, R> accumulator, BinaryOperator<R> combiner) {
        return evaluate(ReduceOps.makeRef(identity, accumulator, combiner));
    }

 

ReduceOpsクラスは、ReduceOpクラスのユーティリティクラスですね。中間操作で使用したStatelessOpの終端操作版がReduceOpクラスになります。

おもしろいことに、ReduceOpクラスはReduceOpsクラスのインナークラスになっています。

さて、そのmakeRefメソッドは以下のようになっています。

    public static <T, U> TerminalOp<T, U>
    makeRef(U seed, BiFunction<U, ? super T, U> reducer, BinaryOperator<U> combiner) {
        Objects.requireNonNull(reducer);
        Objects.requireNonNull(combiner);
    
        class ReducingSink extends Box<U> implements AccumulatingSink<T, U, ReducingSink> {
            @Override
            public void begin(long size) {
                state = seed;
            }

            @Override
            public void accept(T t) {
                state = reducer.apply(state, t);
            }

            @Override
            public void combine(ReducingSink other) {
                state = combiner.apply(state, other.state);
            }
        }
    
        return new ReduceOp<T, U, ReducingSink>(StreamShape.REFERENCE) {
            @Override
            public ReducingSink makeSink() {
                return new ReducingSink();
            }
        };
    }

 

makeRefメソッドの内部で、青字で示したReducingSinkクラスを定義しています。ここでSinkが出てきました。

このReducingSinkクラスが終端操作に対応するSinkです。

ただし、ReducingSinkクラスは中間操作で使用したSinkとはちょっと異なります。

それはReducingSinkクラスがBoxクラスのサブクラスだということです。Boxクラスは値を1つだけ保持するコンテナクラスです。

Gathererと同じで、終端操作は状態を持ち、最終的に処理の結果を返します。その状態を保持するためにBoxクラスを使用しています。

そして、makeRefメソッドの戻り値としてReduceOpクラスの匿名クラスを生成し、その内部でmakeSinkメソッドをオーバーライドし、ここで定義したReducingSinkオブジェクトを返すようにしています。

makeSinkメソッドは定義しましたが、ここでコールされるわけではありません。したがって、まだSinkオブジェクトは生成されていません。

 

中間操作から終端操作までのSinkオブジェクトを連ねる

ここまでで、中間操作と終端操作のSinkオブジェクトを生成する仕組みを見てきました。後は、中間操作から終端操作にいたるSinkオブジェクトを生成し、一連の処理をつなげる必要があります。

これは、reduceメソッドの内部でコールされているevaluateメソッドで行われます。

evaluateメソッド内では処理がシーケンシャルかパラレルかによって処理が分かれますが、ここではシーケンシャルに処理するevaluateSequentialメソッドを見ていきます。

次のコードはReduceOpクラスのevaluateSequentialメソッドです。

    public <P_IN> R evaluateSequential(PipelineHelper<T> helper,
                                       Spliterator<P_IN> spliterator) {
        return helper.wrapAndCopyInto(makeSink(), spliterator).get();
    }

 

ここで、赤字で示したmakeSinkメソッドが出てきました。

makeRefメソッドの中で、ReduceOpクラスの匿名クラスを定義し、makeSinkをオーバーライドしていましたが、そのmakeSinkメソッドをコールするのがevaluateSequentialメソッドの中でした。

これで、終端操作に対応するSinkオブジェクトが生成できました。

一方のSpliteratorオブジェクトも出てきました(変数spliterator)。Spliteretorオブジェクトの生成は、ソースからStreamオブジェクトを作成する時に作られます。ここでは、省略しますが、もし興味があれば、ソースからStreamオブジェクトを生成する部分を見てみるのもおもしろいと思います。

さて、evaluateSequentialメソッドの第1引数のhelperは、実はReduceOpオブジェクト自身です。

継承関係をさかのぼっていくと、ReferencePipelineクラスのスーパークラスがAbstractPipelineクラスで、さらにそのスーパークラスがPipelineHelperクラスになります。

evaluateSequentialメソッドの内部でコールされているwrapAndCopyIntoメソッドがPipelineHelperクラスで定義されているためこうなっているとは思いますが、ちょっと分かりにくいですね。

PipelineHelperクラスのwrapAndCopyIntoメソッドはabstractとして定義されており、AbstractPipelineクラスでオーバーライドされています。

    final <P_IN, S extends Sink<E_OUT>> S wrapAndCopyInto(S sink, Spliterator<P_IN> spliterator) {
        copyInto(wrapSink(Objects.requireNonNull(sink)), spliterator);
        return sink;
    }

 

赤字で示したwrapSinkメソッドがSinkオブジェクトを連ねる処理を行いそうなことが分かります。

中間操作のmapメソッドの中でStatelessOpeクラスの匿名クラスがopWrapSinkメソッドをオーバーライドしていたのを思い出してください。

では、そのwrapSinkメソッドです。

    final <P_IN> Sink<P_IN> wrapSink(Sink<E_OUT> sink) {
        Objects.requireNonNull(sink);

        for ( @SuppressWarnings("rawtypes") AbstractPipeline p=AbstractPipeline.this; p.depth > 0; p=p.previousStage) {
            sink = p.opWrapSink(p.previousStage.combinedFlags, sink);
        }
        return (Sink<P_IN>) sink;
    }

 

for文で自分自身(終端操作のReduceOpオブジェクト)からパイプラインをさかのぼって、opWrapSinkメソッドをコールしています。

opWrapSinkメソッドの内部ではSinkオブジェクトを生成しているので、これで終端操作から中間操作の先頭までのSinkオブジェクトを生成して、チェーンでつなげていくことができました。

残るは、ここで生成したSinkオブジェクトに対して、登録されている処理を行う部分です。

 

Spliteratorを使用したイテレーション

やっと最後のイテレーションの部分にまで到達しました。

先ほどのwrapAndCopyIntoメソッドでwrapSinkメソッドの戻り値(Sinkオブジェクト)とSpliteratorオブジェクトを引数にしてコールされるのが、copyIntoメソッドです。

copyIntoメソッドもAbstractPipelineクラスでオーバーライドされています。

    final <P_IN> void copyInto(Sink<P_IN> wrappedSink, Spliterator<P_IN> spliterator) {
        Objects.requireNonNull(wrappedSink);

        if (!StreamOpFlag.SHORT_CIRCUIT.isKnown(getStreamAndOpFlags())) {
            wrappedSink.begin(spliterator.getExactSizeIfKnown());
            spliterator.forEachRemaining(wrappedSink);
            wrappedSink.end();
        }
        else {
            copyIntoWithCancel(wrappedSink, spliterator);
        }
    }

 

if文でShort Circuitの有無で処理を変えています。

前回、Short Circuitが出てきましたが、イテレーションの途中で停止させるのがShort Circuitです。

Short Circuitの可能性がある場合、イテレーションを継続するか停止するかチェックする必要があるため別メソッド(copyIntoWithCancelメソッド)になっています。

イテレーションの本体は赤字で示したforEachRemainingメソッドです。

Gatherer.IntegratorインタフェースのファクトリーメソッドであるofGreedyメソッドを使った場合も、Short CircuitされることはないのでforEachRemainingメソッドが使用されます。

 

forEachRemainingメソッドを定義しているSpliteratorインタフェースの実装クラスはソースによって異なります。ArrayListクラスや配列の場合、ArraySpliteratorクラスが使われます。

サンプルのコードはStream.ofメソッドでStreamオブジェクトを生成していますが、この場合もArraySpliteratorクラスが使われます。

ArraySpliteratorクラスのforEachRemainingメソッドを次に示します。

    public void forEachRemaining(Consumer<? super T> action) {
        Object[] a; int i, hi; // hoist accesses and checks from loop
        if (action == null)
            throw new NullPointerException();

        if ((a = array).length >= (hi = fence) &&
            (i = index) >= 0 && i > (index = hi)) {
            do { action.accept((T)a[i]); } while (++i < hi);
        }
    }

 

forEachRemainingメソッドの引数の型がConsumerインタフェースになっていますが、SinkインタフェースはConsumerインタフェースのサブインタフェースなので、実態はSinkインタフェースです。

メソッド内では、配列の範囲チェックの後に、do-while文でループします。

このループで、配列の要素を引数にして変数actionのacceptメソッドをコールしています。

この変数actionは最初の中間操作を保持しているSinkオブジェクトなので、中間操作から終端操作まで順々に実行されます。

 

簡単に紹介するつもりでしたが、かなり長くなってしまいました。

 

Stream Gathererの動作

やっとGathererです。

ここまでのStream APIの動作が理解できていれば、Gathererを理解するのも簡単です。

GathererのPipelineとSink

mapやfilterなど状態を持たない中間操作のパイプラインにはStatelessOpクラスが使われてきました。また、SinkにはSink.ChainedReferenceクラスが使われています。

これに対し、Gathererでは専用のパイプラインクラスであるGathererOpクラスが使用されます。また、SinkもGatherSinkクラスが使われます。

これをコードで確かめてみましょう。以下のコードはReferencePipelineクラスのgatherメソッドです。

    public final <R> Stream<R> gather(Gatherer<? super P_OUT, ?, R> gatherer) {
        return GathererOp.of(this, gatherer);
    }

 

ofメソッドがファクトリーメソッドになっており、GathererOpオブジェクトを返しています。

GathererOpクラスのopメソッドはパイプラインの前段がGathererOpクラスであれば、合成する処理が含まれていますが、基本的にはGathererOpクラスのオブジェクトを生成しているだけです。

もう一方のSinkの方ですが、mapメソッドなどではStatelessOpクラスのopWrapSinkメソッドをオーバーライドしていたのを思い出してください。

GathererOpクラスはGatherer専用のクラスなので、opWrapSinkメソッドもオーバーライドされずに、そのまま使われます。

以下にGathererOpクラスのopWrapSinkメソッドを示します。

    Sink<T> opWrapSink(int flags, Sink<R> downstream) {
        return new GatherSink<>(gatherer, downstream);
    }

 

ここでGatherSinkクラスが出てきました。

GatherSinkクラスもGatherer専用なので、匿名クラスなどを使わずに、そのまま使われます。

では、GatherSinkクラスの定義とコンストラクターを見ておきましょう。

    static final class GatherSink<T, A, R> implements Sink<T>, Gatherer.Downstream<R> {
        private final Sink<R> sink;
        private final Gatherer<T, A, R> gatherer;
        private final Integrator<A, T, R> integrator; // Optimization: reuse
        private A state;
        private boolean proceed = true;
        private boolean downstreamProceed = true;

        GatherSink(Gatherer<T, A, R> gatherer, Sink<R> sink) {
            this.gatherer = gatherer;
            this.sink = sink;
            this.integrator = gatherer.integrator();
        }

 

GatherSinkクラスはSinkインタフェースを実装しているのは当然ですが、Gatherer.Downstreamインタフェースも実装しています。

Gatherer.Downstreamインタフェースは、Gatherer.Integratorインタフェースのintegratメソッドで使用するpushメソッドを定義しています。

前回は下流に対してデータを流すという説明をしていましたが、実際はGatherSinkクラスのpushメソッドがコールされるわけです。

また、Gatherer.Downstreamインタフェースを実装しているため、ごっちゃにならないように下流のSinkを表すフィールドはdownstreamではなくsinkという名前になっています。

 

GatherSinkクラスの動作

前述したように、終端操作のパイプラインにおいて、forEachRemainingメソッドでイテレーションが実行されます。その時に、Sinkオブジェクトのacceptメソッドがコールされます。

これはGathererを使った場合も同じです。GatherSinkオブジェクトのacceptメソッドがコールされます。

では、GatherSinkクラスのacceptメソッドを見てみましょう。

        public void accept(T t) {
            /* Benchmarks have indicated that doing an unconditional write to
             * `proceed` is more efficient than branching.
             * We use `&=` here to prevent flips from `false` -> `true`.
             *
             * As of writing this, taking `greedy` or `stateless` into
             * consideration at this point doesn't yield any performance gains.
             */
            proceed &= integrator.integrate(state, t, this);
        }

 

コメントがおもしろいですけど、主題とは関係ないので...

acceptメソッドの内部では、Gatherer.Integratorインタフェースのintegrateメソッドがコールされています。

通常の中間操作であれば、下流のSinkオブジェクトのacceptメソッドをコールするのですが、ここではそれがありません。

Gathererを使う時は、下流にデータを流すかどうかはGathererによるためです。

とはいえ、下流にデータを流す(つまり、下流のSinkオブジェクトのacceptメソッドをコールすることに相当します)場合もあります。これはどこで行っているのでしょうか。

ヒントはintegrateメソッドの第3引数です。

前回、integratorメソッドの説明で、下流にデータを流す時はGatherer.Downstreamインタフェースのpushメソッドをコールしますと説明しました。

そのpushメソッドはintegrateメソッドの第3引数のdownstream変数に対して行っていたことを覚えていますでしょうか。

では、第3引数が何かというと、上のコードではthisを渡しています。

GatherSinkクラスはGatherer.Downstreamインタフェースを実装していますと前述しました。ということは、結局、自分自身のpushメソッドをコールしているということになります。

では、そのpushメソッドを見てみましょう。

    public boolean push(R r) {
        var p = downstreamProceed;
        if (p)
            sink.accept(r);
        return !cancellationRequested(p);
    }

 

ここで、下流のSinkオブジェクトに対してacceptメソッドをコールしていました。

つまり、Gathererで下流にデータをpushした時に、次段から処理が行われるということです。

このようにして、二重ループではなく、効率的に状態を保持した中間操作を行うことができるのです。

 

まとめ

いちおうまとめておきましょう。

Stream APIの動作は要約すると次のようになります。

  1. Spliteratorがイテレーションを行う
  2. Sinkが処理をまとめて、一括してデータを処理する

これに対し、GathererではSinkを工夫することで、下流にデータを流した時にだけ次段から連なる処理を行うようにします。

 

今回はストリームの開始時と終了時の処理や、パラレル処理の場合を省略しましたが、もし興味があるのであればソースを見てみるとおもしろいですよ。